Twitterスペース「喫話 茶淹人」文字録(1)

キャラクターの裏設定、ストーリーの補足
 
由璋について。
由璋は、茶淹人メインキャラ中唯一の人間で、主人公・王の運命を変えてしまった皇帝陛下です。

茶淹人そもそもの成り立ちはお茶の擬人化ですが、はじめはストーリーはなく、王や茉莉花たち、お茶をモチーフにしたキャラクターを作って楽しむだけの、単純なキャラメイクの遊びでした。そこに物語を持たせようとした時に誕生したのが、由璋という人間です。茶淹人の物語は、王と由璋の関係性から始まりました。
由璋は問題を起こすために生まれたキャラクターで、いわば起爆剤。

王と由璋の関係は、武夷岩茶・大紅袍にまつわる伝説がもとになっています。
「その昔、難病に伏した皇帝が、武夷山の薬草を煎じて飲んだところ、病が癒えた。喜んだ皇帝は、その薬草が取れる名もない樹に、大臣だけが着衣を許される赤いマント・大紅袍をかけ、将軍に守らせた。」

王に出逢った時、由璋が苦しんでいた病は急性膵炎です。
由璋は元々、不眠と頭痛という宿痾を持っています。皇帝に即位してからは、滅亡間近の王朝を背負わされ、ストレスにさいなまれる中、健気に勤勉さを発揮して過労レベルの執務をこなします。その状態で、食事を摂らずに夜更けまで酒をあおる、という生活習慣。病の完成です。
王が生まれ持った能力「死に至る病を消す」、この力に救われ、死因となるはずだった膵臓の病巣はなかったことになりました。

由璋は、苛烈で猜疑心が強く、根は真面目でやる気はあって、しかし孤独であり、時に空回りしてしまう。そんな皇帝です。
彼は感情の発露、特に、好意を伝える、という点では非常にいとけなく、そこに天下一の権力が合わさって、益々難解になります。

最近の更新で、王と出逢った頃のエピソードを描きましたが、「来世はおれのもとに生まれて来い」と言う王が、由璋は大好きです。
山霊の王(おう)として天命を持って生まれた王は、由璋の皇帝としての使命の重さを、深い理解にまでは及ばずとも、感じ取ることはできます。そこで、現実逃避の甘い言葉、例えば、「何もかも捨ててこっちへ来い」といった夢物語は語らず、かと言って、現世では一緒にいられないことを悲観するでもなく、来世にしようね、と。
由璋は攻め落とされる城の主であり、本人の思想も相まってどう転んでも死ぬ運命なので、その時の王の態度は何よりも信頼に足る、救いだった。しかし、彼は王を今、どうしても手に入れたくて、わがまま放題足掻いているのです。それなのに「来世でいい」とは、矛盾している。

由璋の王への想いは恋なのですが、本人に自覚がないのと、「これが自分を陥れた兄が溺れ続けた“恋”なのか」と、認めたくない気持ちもあったと思います。
由璋の心の中は、喜び、恐れ、欲望、それが叶わない怒り、それらでぐちゃぐちゃになっている。執着と諦念が交互で、言動にも一貫性がない。彼にとって確かなことは、王が好きということだけなのです。

ここでさらにややこしくなるのが、後に王の態度が変わってしまうことです。
王は、死に突き進んでいく由璋を見守ることができなくなります。由璋の命に誰より執着し、何の救いにもならない、愛に腑抜けた存在に堕ちていってしまう。由璋は失望してしまいます。それを象徴するセリフが、“王が愛した天魔波旬“の「花が折れても虫が潰れても悠然としていろ。出逢った時のお前はそうだった」です。
しかし、王が美しい偶像から凡庸な愛おしい者になっていく姿は、その愛と共に生きたい、と願う気持ちを由璋の心に芽生えさせます。だからと言って運命は変わらないのですが、この時芽生えた「王と共に生きたかった」という由璋の想いを残留思念として宿したのが、紅衣・大紅袍なのです。
勿論、大紅袍はそれだけではなくもっと複雑な、恋も愛も呪いも一緒くたにした存在なのですが、その中には、彼に生きて欲しいと願った王と同じ幸福を見つめた由璋が、確かにいるのです。

作中のお茶とおやつの詳細
 
由璋が好きになったお茶、桂花烏龍茶について。

桂花、というのは、金木犀のことです。桂花烏龍は金木犀の香りをつけた茶で、ジャスミン茶と同じ花茶の部類です。ベースになる茶葉はまちまちですが、茶淹人作中の桂花烏龍は、台湾の高山茶。翡翠色の烏龍茶です。

天然の花だけを使って着香しているものは、金木犀が咲くシーズンにしか生産できません。つぼみや花弁を茶葉と混ぜて香りを移し、丁寧に花を取り除く、という、手間のかかる工程を繰り返して作られています。このタイプの花茶は少し値が張りますが、その代わり、香りは上品で格別に美味しいです。
人工香料を茶葉にスプレーし、後から金木犀の花をブレンドしているものもあります。こちらのお値段はお手頃で、雰囲気は十分楽しめます。

それとは別に、桂花茶、というものもあります。
これは茶葉なしで、花から抽出した成分だけを飲むハーブティーの部類です。この飲み方は菊花茶やメイクイ茶などが有名です。
中国茶のお店では、桂花茶用に金木犀の花がパック詰めされて売っていることがあります。それを自分の好きなお茶に幾らか落として、小さくて可愛らしい花が茶の湯にたゆたう様を味わうのもいいと思います。

王は、不眠をうったえる由璋に桂花烏龍茶を淹れてあげました。金木犀の香りにはリラックス効果や鎮静作用が期待できるそうです。由璋は茶好きではなく、贅沢品であることと、「不老不死をもたらす」妙薬とされた側面が彼の思想に相反するため、茶を日々たしなんではいませんでした。由璋にとって、茶の記憶は王の記憶。桂花烏龍茶は、彼の人生最後の美しい思い出でした。そしてそれは時を越え、王に由璋の記憶を呼び覚まさせるキーアイテムとなります。


王の好きな食べ物として時々出てくるフルーツ、龍眼(ろんがん)について。

龍眼はライチの仲間で、味もライチを想像してもらえればだいたい合っています。ライチよりやや小ぶりで、水分が少ないので、そのぶん甘みを強く感じます。
薬膳フルーツ茶である八宝茶にも龍眼が入っていますが、あれは干し龍眼で、漢方薬や中華料理に使われる食材です。味は、干しぶどうやデーツに似ていると思います。デーツはナツメヤシの実のことです。
八宝茶はこっそり作中に出てきます。ロンロンの好きなお茶で、彼女の主食くらいの勢いです。

衣装について
 
王の物語のベースは中国にあるので、衣装も多くは漢服や唐装を参考に描いています。ただ、そこに縛りは設けておらず、いろんなテイストがごちゃ混ぜです。

例えば、人生一期の王は、唐装、稀に漢服、他にも洋装っぽい襟の服を着る時もあります。アクセサリーはマサイ族を参考にしています。
百華の鎧はプレートアーマーです。ちなみにあの鎧は、彼が使役する鳥による擬態で、金属ではありません。
妃の服は、国や民族と言うよりも、ニワトリやカイコガなどの生き物からイメージを得てデザインしています。
銀果は人間マニアゆえに、そばで暮らす人間達と同じ格好をします。ほとんど漢服です。名叢たちがいちばん自由なファッションかなと思います。

由璋は漢服縛りですが、どの時代、までは気を遣っていません。由璋周辺の世界観として参考にしているのは明の時代なのですが、衣装は個人的趣味から、漢や唐の時代のものをよく描きます。
寿眉は内モンゴルをはじめ、中東のほうも意識しながら、といった感じです。
まりろんは旗袍(チャイナドレス)をベースに、洋装とミックスしつつ現代的になるようにしています。王はこの時代になると唐装メインで、ジャケットタイプのチャイナ服を着るようになります。