補足説明文まとめ

100万回の届かない声

由璋は何度「王会いに来いよ」と念じたのだろうか。

王は約束がなくとも身勝手に由璋に会いに行けたが、由璋にはそんな能力も自由もなかった。生き長らえたことを後悔しそうになる夜にも、思考の一番先には王がいて、会いたい気持ちは何をしても紛らうことはない。

身骨を砕く何もかもが無意味に思えて、さっきの閨の側女には堕胎薬を飲ませた。

あいつ、力を使いすぎて死んでしまったのか?

嗚呼、もう、殺してしまいたい。

封を切らずに取っておいてる酒があるのにな。

眠れない。今すぐ僕を抱きしめろ。

心の穴は空洞ではなく、そこにはいくつもの失意が詰まっていた。王が傍にいた時だけ、それが別のもので埋まるような感覚があった。

由璋は頭の中をぐちゃぐちゃにしながら王を想った。

100万回の届かない声を、先に発していたのは由璋だ。

 

 

世界観・時代などの舞台設定について

CHAildには、世界各地のお茶をモチーフにした数十人のキャラクターが存在します。現在公開しているのは、私が物語として描きたい一部のキャラのみで、「国や時代の設定はない」ことにしています。している…というのは、王(ウアン)の物語に限って言えば、本当は明確な設定があるからです。それを強く出したくないので、ないってことに。

秘密という意味ではないので喜々として書きますが、王のお話は中国が舞台です。彼の故郷は武夷山で、明王朝末期の頃の生まれ、というのも、一応としてあるのですが、これは裏設定程度に思って頂けますと助かります。…CHAildはファンタジーです、ファンタジー。言い過ぎかな…王と由璋の時代は「ちょっと昔の中国」くらいのふわっとした認識で。文化やテクノロジーもそれに準じたイメージですね。

 

王やまりろんが居る街は、パゴダストリートのようなチャイナタウンのイメージです(中国じゃないんかい!)。この時代はやや近代な感じで、茉莉花は自転車に乗ってそうだなと思ったりするのですが、かと言って、スーツや革靴とか、車とか、家電とか、現代っぽい何かは出てきません。ちなみに、龍珠が客から受け取っている紙幣らしきもの、あれは小切手です。何の伏線でもないのでかなりどうでもいい話ですが(笑)。

 

お茶とおやつ…ここに最も時代錯誤が生じます。全く歴史を参照にしていませんので(やっぱりファンタジーじゃないのか…)。お茶とおやつは、現代で手に入るものしか描かないルールにしてます。読者様が気になって試してくださったら嬉しいので。王達とヤオパルの舞台は別世界で、ヤオパルのほうに明確な時代設定はないです。他にも、日本出身、イギリス出身のキャラクターなんかもおります。みんな繋がらない別世界の住人です。

 

 

名叢(めいそう)について

名叢の解説(暫定の設定なので、後々変更する可能性があります)。

彼らに血縁の者はなく、“母樹”と呼ばれる樹から生み出される(由璋はここで縊死した)。

生殖能力はあるので子孫は残せるが、子供に資格・資質は受け継がれない。

「名叢」は、王達“山霊(山に棲む人ならざる者、精霊)”の中でもほんの一握りしか存在しなかった「予言されて生まれてくる命」であり、誰かを助けるための何らかの能力を生まれながらに有している。それを適切な場面で、且つ生涯使い続けなければならないさだめにあり、自分の意思で拒否したり、濫用したり、権利を譲渡したりできるものではない。それらを侵せば、術者に何らかの罰がくだるものと思われる。

負荷の高い過酷な能力を持つ者ほど、見返りなのか、見目麗しく老いの遅い肉体で生まれてくる傾向がある。

 

山間の人間は彼ら名叢に助けられて暮らしていたが、都市部でその存在を知る者は少なかった。そして今や、名叢がこの世に新たに生まれることはなく、古の伝説の存在となっている。

 

王→病で死にゆく者の運命を一度だけ覆す力

妃→生き物の成長スピードを早送りする力

銀果→一定量の水の状態を操作する力

百華→鳥類と意思疎通できる力

 

このような固有の特殊能力を持つ他、離れた場所にある母樹と接木を媒介したショートカット移動ができる。

花や果実のような体臭・高体温(山霊全体の特徴だが、名叢はより強く出る)などの身体的特徴も。

王は掌から芽を出し、それを茶樹へと急激に成長させ、開いた花から琥珀の結晶のような「薬」を落とすことができる。これを「養洗」と云い、病により死相の出ている者だけに効く万能薬。時間が経つと溶けてしまうため、保存することは出来ない。外傷は癒せず、同じ者に2度は使えぬ能力。

命に干渉するレベルの能力は術者も苦痛を伴いながら、気力体力を消耗しながら使う。終わると倒れて数時間は起きない。妃が最後に王の為に力を使って死んでしまったのはそういう理由から

 

 

王にくだされた罰

王は由璋の死後80年くらい生きるが、晩年(肉体年齢は40代くらい、生まれてからの経過年数は150年ほど)、自らの意思で力を使うことを拒否し続け、死という罰を受ける。それが1度目の死。夜に眠ったまま起きない、という死に方だった。‬

王は時が経てば経つほど、「由璋の願いを叶えてやりたい」という気持ちが心を大きく占めていくのを感じていた。長い時間を能力者として生きる中で、自分はもう充分やったと思うようになり、由璋が何度も言った「僕のものになれ(僕には2度と効かぬ力なら、もう他の誰にも使うな)」という言葉を体現したいと思い始める。それは、由璋との幸せな日々の記憶に包まれながらも、彼の死に自責と後悔を抱き続けた人生だったからに他ならなかった。

妻の妃(フェイ)は、さだめに逸れた者にくだる罰が死である可能性を示唆したが、「何があっても最後まであなたの傍にいる」と、王の思いを受け入れた。

しかし、妃が王の亡骸に会う事はなかった。

かわりに、紅衣にかたく包まれた、夫の面差しを持つ赤子を目にするのだった。

 

 

由璋の子供

由璋にはふたりの娘がいた。上が7歳、下は5歳。いずれも皇后との間にできた子。特別に慈しんでいたわけではないが、自分の不遇な幼少期を重ね、皇帝の子供として生まれてきてしまったことを唯々同情していた。

由璋が殺した中でも特に才覚のあった家臣の遺族(彼の兄)が、先帝(由璋の兄)の悪政(歴史上トップクラスの恐怖政治と言われた)から恨みを募らせていた市井の者達にレジスタンスを組織させ、それを率いて反乱軍に加わったことが、王朝滅亡・由璋の死の引き金となる。彼が決起した理由を知った時、同じ「兄」でも雲泥の差があることに、由璋は最後まで自分のさだめを呪った。

この時、側室とふたりの娘は由璋が斬り、子供の母親である皇后は、由璋に「自分で死ねないなら斬ってやる」と言われて自決。しかし、下の娘を手にかける時に(やはり幼少の自分の姿と重なってしまい)躊躇いが生じ、急所から外れていた。由璋はそれに気付かぬまま死地である正山を目指した為、娘が生きていることなど知る由もない。

最期を迎える由璋にはもう、そんな事はどうでも良かっただろう。由璋にとっては王が全てだった。一瞬一瞬の情けはあっても、娘達は、由璋の心を癒す者ではなかったのだ。

 

虫の息であった由璋の娘を助け、極秘裏に逃したのは、由璋に“月琴”と呼ばれた宦官であった。由璋の娘はその後、予てより縁談のあった皇族筋に庇護され、数年後に婚姻。10代末に子を産むも、その後すぐに病死した。悲しい目を自分に向けていた父親を、彼女は恨んでいただろうか。

 

王が旅する今この時のどこかに、もしかしたら、由璋の子孫が生きているのかも知れない……

 

 

※由璋の正妻はめっちゃくちゃ美女です(それが理由で嫁がされた)。それでも王に出逢って「生まれて初めて美しい者を見た」ってなっちゃう由璋ね…。外見の話じゃないんだな。