Twitterスペース「喫話 茶淹人」文字録(2)

 

青霞について(キャラの裏設定、ストーリーの補足)
 
青霞(せいか)は由璋の妻で、皇后だった人間の女性です。フルネームは蒐(しゅう)青霞といいます。
由璋の血統が支配した一時代を天明(てんみょう)王朝といいます。青霞のお家である蒐家は、先祖代々、家長は天明王朝の文官です。そして、歴史を辿れば過去にも皇帝と姻戚関係のあった、由緒正しい家柄。青霞はそういう家のお嬢様です。

青霞の父は、先々代の皇帝に仕えるごく平凡な家臣でした。先々代の皇帝は由璋の父親です。由璋の父は、由璋の兄ほどではないものの、悪政を敷く皇帝でした。由璋が「自分の血筋は無能ばかり」と言うのは、こういう部分があるからです。由璋の父は、料理や酒に少しずつ毒を盛られ続け、衰弱して死んでしまいます。父親の死は、兄・孝深(こうしん)が起こした後継者争いのトリガーとなり、皇帝に即位した孝深は人事を一新、青霞の父は罷免されてしまいました。この同時期に、由璋は兄に政変の濡れ衣を着せられ、投獄されています。

故郷に帰って意気消沈する青霞の父。お家の再起をかけて動き出したのは、青霞の母親でした。美しいひとり娘を皇帝に嫁がせることで、朝廷に返り咲こうという目論見です。天明王朝の皇后になるための絶対条件のひとつが「外見の美しさ」でした。
青霞は幼少の頃から切り札的に育てられた娘で、芸事に秀で、自分の美しさを自覚しており、自信に満ち溢れた少女。皇帝に嫁ぐことは最上のステータスだと教え込まれてきました。
しかし、時の皇帝・孝深の暗愚さは、国の傾きぶりを見るに明らか。その上、己を育ててくれた乳母に心酔しており、他の妃には目もくれず、皇后候補を外から募ることもしません。先見の目を光らせた青霞の母は、幽閉を解かれてどこぞの山地の王に封じられた、皇帝の弟に目を付けます。それが由璋。家柄も容姿も申し分ない青霞ですから、縁談は滞りなく進みました。
しかし、蒐家のこの計画は失敗に終わります。

由璋は後に皇帝になり、青霞を皇后に立てます。そうして朝廷へと戻った青霞の父が目にしたのは、新しい皇帝の苛烈な気性と、処刑された役人やその家族の死体の山。臆した青霞の父は体調を崩し、故郷に帰りました。
青霞の臆病さは父親似な気がします。もっとも彼女は、由璋から目を背けつつも最後まで逃げませんでしたが。お家のため…という、家運を背負う気概と言うよりは、彼女は自分や子供が生きるためにも、由璋を止めたかった。間違ったことをしようとしている夫を止めることが寄り添いだと思っていたし、それが無理だとわかった時、ならば王朝とともに滅びようと。このへんの思想は、名家ならではの親の教育だと思います。あの由璋から逃げるのも怖かっただろうし。

由璋に嫁いだばかり、新婚の青霞には、早くも苦難が訪れます。
夫が自分の美貌に目もくれないばかりか、「美しいだけの妃は害悪でしかない。醜い欲や企みがあって輿入れしたのなら、私はそなたを殺す。」と言われてしまいます。青霞自身は、お家のことは二の次で、自分の美貌が天下の男に通じるのかという部分が、いちばん気になるところだったのですが、逆にその容姿が原因で夫から警戒されてしまい、結婚して何日経っても、手にすら触れてもらえないという事実。裏を返せば、非常に美しいと認めてもらえている証拠ですが、青霞は完全に自信喪失してしまいます。

彼女は、由璋が政変を起こした罪で幽閉されていた罪人で、気難しい相手だということもわかっていましたが、冤罪だとは知らず、その傷を軽く見ていた。青霞は真面目な子だけど、薄いと言うか、由璋に太刀打ちしなければならないのは可哀想なほど、ただのお嬢様。ベストを尽くしても、多くの人間を巻き添えにして死へ突き進む夫を止めることができない。無力感があったと思います。

しかしここから、とある些細なキッカケで…(この場では濁しておきますが)、由璋は青霞を妻として受け入れ、急に関係が進展します。急に、というのが感情置き去りなのですが。恋愛結婚ではないので。お家のために子作りしないと、という時代。

ここから皇帝になるまでの由璋は、都の権力から遠い場所で、邪心のない妻がいて、子供にも恵まれて、それなりに穏やかだったと思います。青霞もその頃の夫の姿を、晩年何度も思い出した。時を戻したかった。

由璋にとって、山霊である王との出会いは強烈で、王という存在があるなら、王に出会うために生まれてきたのなら、この世界も悪くないと思って死んでいったくらい、彼の人生を変えた幸福でした。
奥さんの青霞がそれをどう思っていたかと言うのは、「王なら夫を止められるんじゃないか」と、望みを賭けていたのです。生き死にがかかっているので、あなた達どういう関係なの?というところはもう、二の次です。王は由璋の鞘で、由璋の中の悪魔を鎮め、手綱を握ることができた。青霞にとってもある種の救世主。しかし、王は由璋とあくまで対等な立場を貫き、服従しなかった。皇帝の意に背ける者がこの世にいるはずがないので、青霞はとてもやきもきした。王に勝手に期待して、勝手に失望していました。言い方悪いですが、生贄になって欲しかったわけです。

自分が夫にいちばんに愛されたかったとか、自分が癒してあげたかったとか、思わないでもないんですが、その情の起こりは結局は自己顕示欲で。なぜなら、王が美しい男だったから。そこで悔しがる青霞はいるかもしれません。浅はかでかわいいなと思います。

青霞と由璋の間にある情は、恋愛じゃないと思います。やはり主と家臣だったり、共犯者だったりの。
王と由璋は、ここで道は分かれても、来世でまた会おう、来世では一緒にいよう、という関係。私はそういうものがとても好きなのですが、由璋と青霞は逆なんです。
由璋は自分が死ぬ前に青霞にも自死を命じますが、その時、青霞に最後にかけた言葉が「来世があったら、もう私に出会うなよ」です。これは、由璋なりに「苦労をかけたね」という意味で言っていて、青霞はそれを汲み取ることができた。泣き笑いで「はい」と返事をする。真逆だけど、その言葉が出るというのもよほど深い縁で、凄く好きです。

由璋は青霞が死んだ時、その終わりを見て、初めて心から彼女を信じた。大切な妻とか、愛していたとか、そういう感情じゃなく、誰よりも長く側にいたこの人が、自分の一番の忠臣だった、と。結果を以ってしか人を信じることができないのは、由璋の心の弱さだと思います。

青霞は時代に翻弄された力無い人で、王にも由璋にも大きな影響を与えていないように思えるのですが、彼女が生前、王のことを「大紅袍(ダーホンパオ)」という名で書き記していた日記は、CHAildのストーリー上、とても重要なアイテムになってきます。

他の女子キャラについて
こちらは制作秘話的な話をします。

私は女子キャラは、好きなタイプは勿論あるけれど、どんな子もそれぞれ可愛いポイントがあって、CHAild女子の描き分けは、桃源郷を生み出すかのような感覚です。邪な気持ちで作ったほうがキャラクターは光ると思います。私は龍珠のような、気が強くて情の深い女の子が特に好きです。

まりろんはとにかく、可愛い女の子を描きたい、という気持ちから生まれたキャラクターです。
前回のスペースでもお話ししたことですが、CHAildのキャラは、ストーリーを動かすために作ったキャラと、それ以前に、単純に私が楽しむためだけに、まず見た目と簡単な性格の設定だけ作ったキャラのふたつに分けられます。まりろんは完全に後者で、作った初期から外見がほぼ変わってません。ちなみに、描くのが難しいキャラのひとりです。あの独特の髪型のバランスが難しく、目が大きいキャラなので顔面のバランスも難しく、茉莉花のピアス(花が開きかけのデザイン)や、龍珠の服は作画コストが高い。頑張れば可愛いので、可愛い子見たい下心だけで描いてます。

妃は私の中で、CHAildの全てのキャラクターの中で最も外見が美しいひと、という設定があります。
私が思う美しさ全詰め!のようなお方です。シルエットに起伏が少なく中性的で、色味が少なくて、あまり笑わず。いちばん精霊っぽい雰囲気を持つひとかなと思います。まなざしが仏様のようなのは、私が仏像を美しいと思っているからで、モチーフに蛾が入っているのは、母性を象徴する怪獣であるモスラが元ネタです。

寿眉には、原型になるキャラクターがいます。
私が一番最初に作った創作キャラの女の子。そのキャラを今でも凄く気に入っていて、小柄で吊り目で髪が短い、八重歯、肉体的に逞しい、頑固な性格など、おおよその特徴を記号的にサルベージしてます。なので寿眉はある種、私の性癖の最古の部分を持っている。健康で逞しい女の子が好きです。
長いこと私の創作にお付き合いくださってるかたは、もしかしたら知っているかもしれないですね。滋という名前のキャラです。

CHAildキャラが人間か山霊かは、顔に刺青のような模様(以下、印と呼ぶ)があるかどうかでわかるのですが、寿眉は、山霊と人間、どっちの血も入っています。彼女はヤクやヤギを飼う遊牧民の家の娘で、10人兄弟の長子です。顔に印があるのは寿眉ともうひとり、下から2番目の弟のふたりだけ。そして両親に印はなく、祖父には印がある。寿眉は山霊の血が薄い家系ながらも、印が出た子供として、山岳部の山霊集落の若長に嫁ぐことになりました。

王の故郷、正山(ラプサン)では、他の山のことを、外の山、外山、と書いて「タリー」と呼びました。正山は全ての山の頂点に君臨する霊峰だという意味です。この呼び名は私の創作ではありません。大紅袍の生産地・武夷山で作られる紅茶を、正山小種(ラプサンスーチョン)と言いますが、同じ製法でも武夷山以外の場所で作られた紅茶のことを、外山小種(タリースーチョン)と呼ぶんです。そこから取っています。

寿眉は王のことただの弱虫なおっさんだと思っていましたが、寿眉が嫁ぐ集落の山は無数にある外山のひとつで、外山の山霊にとっても、王は王(おう)様なんです。

茉莉花は、山霊の血が濃い。彼女の印からはジャスミンの香りがします。まりろんの時代にはそういうひとはもう、山地を探しても珍しい。王のような、人間の血が微塵も混じっていない精霊は、おとぎ話の中の存在です。そんな時代の流れに逆らうようにして生まれたのが、輔(ソエ)という、最後の名叢です。

まりろんの時代の世界観について
茉莉花と龍珠が生まれた時代は、王の誕生から300年が経っていて、比較的近代の様相をイメージして作っています。

まりろんの時代に何があって何がない、というのを、こと細かに設定しているわけではないですが、現代の現実世界にある便利なものは描かない、といった感じです。
例えば、電化製品は普及していません。白熱電球はあります。自転車もあります。お金は硬貨と紙幣があり、銀行があって、まとまったお給料は小切手でもらい、自分で現金化します。
比較として、王が山にいた頃の人間の話をします。
人間のお給料は、半分は反物や食べ物で支給されるという時代でした。物々交換が成立していて、お茶は街では高値で扱われる。この時代は硬貨が主流ですが、これもまりろん時代にはもう使われていないもの。紙幣と小切手はありませんでした。
由璋が生前に編纂した暦が、彼の死後に国中で使われるようになるのですが、それももう廃止され、新しい暦になっている。
私たちには現代とは言い難い世界観でも、王にとってはだいぶ様変わりした未来、といったところです。王はそもそも、都会に根ざしたのはまりろん時代が初めてです。まりろんが住む街は、かつて由璋の城があった王都に近く、単純な、田舎と都会のギャップもあります。

テクノロジー面以外にも、いくつか明確に意識して描いていることがあります。そのひとつが蓋碗です。
まりろんの時代より前には、お茶を飲むシーンで蓋碗を描かないようにしてます。
蓋碗は実際の歴史を見ても、使われ始めるのは清王朝からで…そんなに大昔ではないようです。CHAildでも、由璋の時代にはなかったものとして設定しています。
他には、ランタン。まりろんの時代を描く時、象徴的に背景に入れることがあります。ちなみに、由璋は蝋燭を使ってました。
王たち山霊は火がちょっと苦手なので、夜は月明かりが頼りで、室内で必要な時は植物性の油で油燈を使いました。寿眉は松明や、同じ油燈でも獣脂を使ったのかな、など。灯りを描き分けると、時代や文化圏の違いがわかりやすいのかなと勝手に思っているのですが、言うほど丁寧に描写してないので、紙の本出す時はもっと意識して描きたい部分です。

それから、まりろんが住んでいる繁華街は言わずもがな、チャイナタウンをモデルに描いています。中国のどこかの街、ではなく、中華街、です。より雑多な空気感が欲しいためです。横浜やニューヨークなど、行ったことのある中華街の空気感などを思い出しつつ、オートラムの中華街の写真なども大いに参考にしてます。

音楽、色、漢字一文字など、キャラクターのイメージについて
色や、象徴的なフレーズ、そういうのは普段から意識してキャラ作ってるので、これはパッと出てきます。音楽も私にとって凄く重要なコンテンツなので、日頃からイメージを乗せることが多いです。
今回は、好きと言ってもらえることが多いキャラに絞って記します。

【王】
漢字…愛
色…深紅
音楽…「雲は龍に舞い、風は鳳に歌う」/陰陽座

【百華】
漢字…盾
色…墨色
音楽…なし

【妃】
漢字…慈、美
(妃の美しさをハイレベルに賛美するキャラがいます。妃が美しすぎて好きすぎて、「妃に仕えろ」という天啓をもらったと嘘をつき、妃の側にいた名叢がいます。まだ出してないキャラクターですが。)
色…アイボリー
音楽…「私が見たもの」/KOKIA

【まりろん】
漢字…灯
色…エメラルド、紫、山吹色
音楽…「龍」/天野月、「つないで手」/一青窈

【由璋】
漢字…炎、嵐、烈
色…黄色、オレンジ、深緑
音楽…「またね幻」/ずっと真夜中でいいのに。

【冥(ミイン)】
漢字…影
色…ライラック
音楽…「Darlin’ from hell」/GRAPEVINE