Twitterスペース「喫話 茶淹人」文字録(5)

美鷂について
美鷂は王と入れ違いで死んでしまうキャラではありますが、王の恋人であった冥を語る上では外せない人物であり、間接的に王に影響を与えた人と言えます。

美鷂は冥の誕生から6年後に生まれた名叢で、冥と美鷂は幼馴染です。人間で6歳差というと結構離れていますが、名叢達は10歳から15歳差くらいまでは同年代という認識です。理由のひとつに幼体期の冬眠があります。王たち名叢は、幼体期のうちは冬は活動しません。冬眠する子はひとつ屋根の下に集い、春になるまで1日のほとんどを眠って過ごします。この冬眠をしなくなると、大人とみなされます。だいたい20歳前後。王は25歳くらいまで冬眠していたので、30歳の時に冥に子供扱いされても、それは当然のことなのでした。
一緒に冬眠した者同士は、生まれ年が近く、冬の間に自然と交流を持つので、幼馴染という認識になります。冥と美鷂はそういう関係です。
もうひとり、このふたりと年の近い名叢がいるのですが、まだ公開していないキャラクターなので、ここでは置いておきます。

余談ですが、妃は生まれて数日で大人になったため幼体期がなく、冬眠を経験していません。だから王と妃は歳が近くても交流がありませんでした。王と一緒に冬眠していたのは銀果です。

美鷂は人間の赤ん坊の姿で地上に誕生する前から、自分の能力とその使い方、課せられたノルマを知っている名叢です。それらを教え込まれてから、地上に出てくる。このタイプは滅多に出現しない強力な能力者で、名叢史上、美鷂、妃、王、輔の4人しか存在しません。
美鷂は自らの吐息を人間の子供の耳から体内に送ることで、基礎体力や免疫力を一定上げることのできる力を持っていました。それを使い続けることが天からの命令です。王が力を使う時と同じく、丹田に痛みを伴う行為です。子供にしか効かない能力ですが、乳幼児の成長が容易い時代ではなかったため、美鷂は山の人々には聖母として崇められていました。人間に対して博愛の情を持っていた彼女の人柄も、聖母と言われた理由のひとつ。
しかし美鷂が完璧な聖者ではないことを、ごく一部の者は知っていた。それが冥です。

美鷂は、聖母を望んで演じ、その地位を守るために心身にかかる負荷を、従者である冥に当たり散らすことでいなしていた。
私は美鷂を「称号をもらえなかった王(おう)」だと思っています。王は王(おう)になるために作られた命で、立場が明確な存在だったため、山全体が王を手厚くサポートするよう、体制が敷かれていました。美鷂が無名の王(おう)として、その実績だけで聖母と呼ばれ、大切にされていたのは凄いことなんです。いかに彼女が頑張っていたか。使命感の強かった美鷂の方がよほど、王(おう)の適任者でした。

美鷂は王(おう)になりたかったんです。王(おう)となる者が誕生すると知った時、彼女は自分の欲望に気付いてしまう。自分に取って代わる者が現れたと思った美鷂は焦ります。
生まれただけで全てを持っていた王に嫉妬し、羨み、それでも、己の役割に徹することでそれを超えていこうという、圧倒的な矜持を持っていた。
しかし、それが彼女の死に繋がりました。
もっとたくさんの人を救おう、もっと聖母としての功績を作ろう。そうして美鷂は、自分が一度に出せる力以上のエネルギーを放出してしまい、100年以上生きる名叢において、49歳という若さで人命を終えました。

王が生まれて来なかったら、美鷂はもっと長く生きていたと思います。冥もそれをわかっていました。しかし、これは誰にもどうしようもない問題であり、美鷂に勝るさだめを背負った王は、彼女と同じ運命を辿る可能性すらある。冥は、名叢に力を授けて操る天啓、それこそが悪だと考えていました。

王(おう)になりたかったのに与えられなかった美鷂。王(おう)になりたくなかったのにさだめられた王。どちらの心にも触れてしまったのが冥です。

美鷂は冥にとって特別な存在でした。それは、長く一緒にいすぎたが故の、深い情です。憎らしくも可愛かったと思います。妹のように。
美鷂はどうかな?と考えましたが、やはり、冥はお姉ちゃんだったと思うし、冥に対して所有欲があったと思います。冥は私のもの、という思いがあった。
だから、冥の交友関係を壊して孤立させるようなこともするし、私から離れたら聖母をやめる、全てあなたのためにやっている、などという、強い言葉を悪気なく使う。そういう時の美鷂を、冥はどうしようもなく嫌いだったし、どうにかして支えたかったし、どうにかして、歩みを止めさせたい人でもあったでしょう。美鷂に人間を救う使命感があったように、冥には美鷂を救う使命感があったのだろうと考えます。

美鷂のモチーフになったお茶は、半天腰という武夷岩茶です。このお茶は、山の中腹に生えていて、午前中は日の光をたっぷりと浴びて、午後には日が当たらないという、一級品の茶葉になるために最適な環境にいます。
一方で、冥のモチーフである不見天は、深い谷の薄闇の中に生えていて、朝のほんのわずかな時間しか日が当たりません。こちらは、到底良いお茶になるとは思えない環境(なのに美味しいのですよ)。

半天腰と不見天は光と影なのです。このイメージに底知れぬロマンを感じて、美鷂と冥というキャラクターが生まれました。

キャラのカラーリングについて(キャラクター裏話)
CHAildの王以外のキャラの髪色やデフォルトの衣装、装飾品などの配色には意味があります。

主人公とどういう関係で、どのような役割を与えるキャラクターなのかを、私がざっくり可視化するシステムです。

例)
黄色・緑…王と恋愛もしくはそれに近しい親密な関係になる者
赤…王を害したり、意見が食い違ったり、敵対関係になる者
紫…王の意に反して、彼のもとを去っていく者
青…王のいないところで、彼の苦悩に寄り添い続ける者
黒・灰色…王に従う者、守る者

このような感じで、メインキャラのデフォルト配色にはある程度の縛りを設けています。これはあくまでも自分用のカテゴライズです。何せはっきりとした絶対ルールではないですし、例外のキャラもいるので。私にしかわからない付箋のようなものだと思っています。

ひとり一色ではなく、該当すればたくさんの色を持ちます。持ち色が多いほどキャラの立ち位置は複雑と言うか、ブレがある。由璋がその最たる例で、彼は、信頼の黄色、恋愛の緑、敵対の赤、離別の紫を持つキャラです。逆に色が少なければ、王への想いや対応が一貫しています。赤の黄芽、黒の百華、緑の茉莉花がそうです。
そして、例外の人というのが、妃さん。私は妃にもたくさんの色があると思っていて、敵対の赤も寄り添いの青も持ってるキャラクターなのですが、妃だけは、どうしても真っ白な見た目にしたかったんです。私は妃を描く時が一番描き直します。美しく表現できなければ許せなくて。妃だけは、デザイン至上主義なところがあります。
カラー仕分けは王との関係性で行うものなので、それに染まらない妃さんっていいな、と思いました。

キャラクターデザインの話
CHAildはお茶の擬人化ですし、人間である由璋も中国皇帝というモチーフがあり、元ネタがある創作なので、そのモチーフをいかに自分なりに魅力的に再構築できるか、にかかっていると考えています。
私はモチーフの見た目だけでなく、そのものが持つ歴史や伝説を、掘って掘って掘りまくるのが好きなタイプです。美鷂と冥のモチーフにしたお茶の話もそうですが、目に見えない部分が与えてくれるひらめきが、創作意欲につながります。そういう点では、中国茶は歴史が長いぶん伝説には事欠かないので、キャラデザや性格設定のあれもこれも、元ネタのある状態です。
茉莉花と龍珠もジャスミン茶の民間伝承、伝説があるのですが、それが元ネタです。もし伝説を知っている人がいたら、彼女たちの正体がちょっとわかってしまうかも?私は妄想と願望を混ぜ込むのが得意なので、元ネタからどんどん遠ざかっているのは認めますが…

外見のデザイン。擬人化だけの話ではなく、キャラの見た目を考える時に気を付けているのが、自分の描きたいもの3割、そのキャラの性格や暮らし、生きてきた中で身につけた哲学を表すもの7割、このくらいの比率を守ろうと心がけています。
みなさんは、家具や家電や服や靴など、自分が使うものを買う時、見た目重視で選びますか?それとも、実用性に全振りしますか?この比率が、私は見た目3、実用性7くらいのものに一番惹かれます。見た目がどんなに素敵でも、機能が優れていて、且つそれが自分の暮らしに合っていないと、結局は持て余してしまう。でも、見た目を愛せるかどうかも、大切な要素。なくすことはできない。キャラクターデザインもそういう考え方でやっています。

王を例にすると、まず、私が単にそうしたいだけ、という、理由のないデザイン、理由を後付けするとも言いますが。これは、アクセサリーをたくさんつけているところ。単に描きたいだけです。王に限らず、メインキャラが全員ピアスをしているのも、私の趣味です。それから、髪の毛の色が薄ピンクなところ。配色にピンクが入った男性キャラが好きなだけです。

逆に、王の顔と体型については、理由があってあのデザインになっています。顔面は美人という設定です。これは、名叢は使う能力が過負荷なほど、生まれ持つ容姿が美しいという設定があるからです。
体型はと言うと、筋肉質だけど意識して整えているわけではない胴体、手足がデカくてゴツいわりに、背はそんなに高くないため、スタイルは平凡です。
王は、生まれ持つ美しさだけが強調されているひとで、美しくなる努力は特にしていない、むしろ逆をいくような、そういう生き方のキャラクター。ただし、周りの手が加わって美しく保たれていた幼体期の王は、最強の美少年でした。

王たちは、私がただ遊ぶだけの見目の良いお人形ではなく、意思を持って生きているキャラクターなので、服にも髪型にも装飾にも、デザインにある程度意味がなければ、生身だという説得力に欠けるのではないかと思っています。そのあたりが気をつけているところです。
なので、キャラクターの見た目を考えるのは、キャラ作りの最終段階です。先にデータを全部揃えてから。どういう暮らしをする人なのか、どんな人生を歩んで今がある人なのか、私が知らないまま、姿を写し出すのは不可能です。

私は格闘ゲームが好きなのですが、デフォルトの衣装があまりにもデザイン重視なキャラって必ずいますよね。この人は真剣勝負の場で、なぜこんな服を着ているのだろう…闘いにくそうだな…みたいな。しかし格ゲーは、そのデザインの良さがひとつの大きな要素で、あのゲームジャンルを成り立たせている魅力のひとつだと思うのです。それを私のような、キャラをひたすら掘り下げる創作スタイルで、尚且つ生活感のあるストーリーを描く人間がやっても、世界観から浮いてしまってデメリットの方が大きい。

CHAildとは関係ないところで、デザインに全振りしたキャラデザを一度やってみたいな、とも思います。

キャラの宝物や収集物の話
真っ先に思い浮かんだキャラクターが黄芽なので、まず彼の話を。
黄芽は盗賊の若頭で、王を一度殺す悪役な立ち位置から始まるキャラ。
黄芽は、王も所持している紅いマント・大紅袍のコレクターです。骨董品が好きで、皇帝が大臣に与える褒美であった大紅袍を大陸全土から集めています。王が由璋からもらった大紅袍は、旧時代の骨董。もう皇帝は存在しない時代になっているわけですから。

それから、宝物というと、寿眉がそれに近いものを生涯持ち続けて、子孫に託しています。
寿眉が王と出逢った頃に愛用していた小刀で、ホタクという、小刀とお箸を一緒に鞘におさめて携帯できるものがあって。その寿眉の小刀は、王が自決するのに使いました。
自ら心臓を貫いて、その血がついたまま錆びた小刀です。寿眉にとっては、お守りのような存在だったと思います。
寿眉のエピソードはほとんど出していないので、断片的な話で申し訳ないのですが。このテーマを語るなら外せないキャラクターのひとりです。(寿眉についてはツイログが補足になるかと思います。)

宝物をたくさん持っているのは、やはり王でしょう。人より長く生きて、今まで別れてきた大切な人たちが残してくれたものがあるので。
まず、大紅袍は由璋の忘れ形見。王の左耳、ヘリックスに付けているのも、冥のピアス。それから、まりろんと出会った頃に首にチョーカーのように巻いている、鉱石がたくさん繋がったもの。あれは妃さんから託されたものです。他にも、銀果が残してくれた硬貨の最後の一枚や、由璋が編纂に関わった暦書など、色々なものを持っています。そして、それを手放すこともあります。茶壷もそのひとつです。

茶壷は中国茶の急須にあたる茶器です。王が正山にいた頃から持っているもので、いろんな人とお茶を飲んできた思い出の詰まった、過去と今を繋ぐようなアイテムです。これも大紅袍と同じく、旧時代の骨董品にあたるお宝です。

このように、物にまつわるエピソードがたくさんあるのが、茶淹人の特徴のひとつだと思っています。

私は物に宿る意思に魅力を感じています。
古い本を開いた時に、ずっと昔にそれを読んでいた人が挟んだ栞や、そこに何気なく描かれたメモを目にしたとすれば。本に閉じ込められていた過去の時間が、一気に流れ出して、そこに入り込んだような感覚があると思います。
そしてその栞のメモが、とうの昔に喪った、自分の大切な人の字だったとしたら。きっと、嬉しさや切なさで涙が出るでしょう。
物は時に、本来の役割を超えた働きかけをして、誰かとの思い出や、場所の記憶を宿したり、失われた過去を教えてくれたりします。
物に宿った自分だけの神様のようなものを感じることができるのが人間で、私はそれを物語の核として扱うことを、ずっと夢見ていました。
なのでCHAildは、RPGの持ち物の「大事なもの」のほうに入るアイテムが、たくさん出てくるお話です。回復薬などの消耗品リストとは別枠で、ありますよね、大事なもの。鍵とか、封印を解く石板とか、新大陸の地図とかが入るところ。あれです。

冥が美鷂のかんざしを捨てられないように、妃の、蛾の形の髪留め、あれも実は誰かの形見なんです。この話もいつかできたらいいなと思っています。