Twilog 紅衣編(1)

紅衣が夜になると眠ってしまうのは、“安眠”が由璋の望みのひとつだったからです。

 

 

紅衣の呪いを「由璋の愛だ」と許す王の生き方は滑稽でも、それはふたりだけが知る夢だから。結末を変えられなくても出逢ってしまった。王と由璋が一緒にいた理由はふたりにしかわからない。

 

 

「つないで手」は私にとって茉莉花→王で、王の輪廻の終わり(本当の死)を見届ける娘、という立ち位置の茉莉花を想像して聴いてる。辛くなるけど、それが愛のリレーのゴール。

由璋のことを思い出した王を見つめる茉莉花だ…と思うんだ、歌詞。“たくさんのもしもがありすぎて”が、王と由璋なんだよな…

 

 

紅衣は由璋の考え方と行動パターンを割と写しとった存在。王に対して従順だが、狂愛のほうが勝っている。王が望んでも他人は助けない(王だけが生きていればいい)し、王に愛された者を妬み殺す。でも、自分のしたことで王が傷付き悲しみ、憤ると、その訴えを聞き入れて、少しずつ学習していく。

全ては王を生かし続けるため、紅衣が未来永劫、王という生命を賛美し続けるためである。異形でもそれが由璋だとわかったなら、王にとっては愛しき怪物だろう。

 

 

1期、2期、3期…それぞれの王を、別人くらいの勢いで描いてる。時は、経験は、ひとを変える。二度と還らないものがあり、取り戻せるものもある。退廃し、成熟し、抗ったり受け入れたりしながら生きてきた。強く、時に脆く、愛を乞い、愛を与えることもできる。それが3期の王かな…

 

 

王が由璋のことを思い出す時に鍵となるのが「香り」と「名前」。龍珠に皇帝についての文献を読んでもらってる時に、「由璋」という諱もそこに載っていて、王は何も覚えていない筈なのにそれを見ると怒りが湧いて、龍珠が読み上げたその名の響きも嫌で取り乱す…というエピソードがある。

 

その感情の理由が何であるかを探ることになるが、それが恨み憎しみではなく、由璋が王にだけ許した、ふたりだけの秘密だと決めた美しい思い出さえ、歴史に暴かれてしまうことへの怒りである…というところまで到達するには、「香りの記憶」が不可欠だった。

 

 

王が紅衣編で由璋のことを思い出しても、それは過去でしかない。紅衣の思念は由璋のものであっても由璋本人ではない。謎が解き明かされようと、記憶を取り戻そうと、ふたりは二度と会えない。私は由璋の霊体的なものを登場させる気もない。取り戻した思い出の輝きだけが、王と由璋の全てだ。

 

 

自分の為にしかひとを愛せなかった王が、妃からもらった無償の愛を覚えていたから、寿眉を生かすために死に、その愛を寿眉は生涯忘れず、子に語り継いだ。寿眉が王に与えた活力は、彼が自分らしく生きる(=まりろんと恋をする)ことに繋がり、まりろんとの縁が、王を再び由璋の記憶へと辿り着かせる。

 

 

正山には、古の伝説となった筈の名叢の…正真正銘、最後のひとりが誕生していた。彼は“王の帰還を待つ”という天啓を受けている。

  

 

竜生九子の贔屓(ひき)。功績を刻んだ石碑や名君の墓石の台座・亀趺(きふ)になる子で、「贔屓(ひいき)」という言葉の語源。王が「紅衣編」で辿り着く由璋の墓石には、亀趺がない。それを見て何を思うのだろう。

王にとっちゃどうでもいいだろうな、他人が由璋をどう評価しようと。ただ、人間のもとに帰したくなかった由璋の亡骸が、石で囲まれた冷たく暗い場所に眠ってる事に改めてショックを受けそう。

王は本当は…由璋が死に場所に選んだ、自分を産んだあの母樹の下に、自らの手で彼を埋葬したかった。

当時の王にとっては「墓」自体がカルチャーショックでもあった。山霊達は墓を作らなかったし、特に名叢の死は、人間のそれとは全く違うので。

 

 

王を片時も離さず、彼と広い世界を旅して、日没を見届けたらストンと眠る。由璋は紅衣となって、現世では叶うことのなかった様々な望みの中で息をしている。「僕を忘れないでくれ」という、最期の願いを犠牲にして。

 

 

王はただ純粋に、「由璋」というひとりの人間を見つめていた。彼の皇帝としての顔や、後世が下す評価、記された真実と嘘、そして、自分自身もその歴史に刻まれた存在であったこと…王がそれを知るのが「紅衣編」。宗烈帝の素顔を知る者は昔も今も、どこにもいない。王がそれを思い出さない限り。

 

 

紅衣の王への独占欲は由璋の愛の形そのもので、本来なら王はそういう狂おしい愛に身を任せるのが好きな男だった。今の王が由璋のことを覚えていたなら、紅衣に包まれながら、ゆけるところまでふたりだけで旅をしたかもしれない。夜は温もりのある他の誰かに抱かれながら(こういうところが王)。

 

 

王にとって紅衣は、永久に宥め続けなければならない化け物でしかない。