散文/王と由璋(1)

天真流露

「王(ウアン)は僕より年若く見えるが。」

「由璋のほうが稚(いとけな)く見えるぞ。」

「い、稚い…、、僕の齢(よわい)を知ってるか、もうすぐ30だぞ。」

「それは人間の云う暦というものが30…巡ったということだな。」

「……ああ、お前、暦を使ってないのか。」

「しかし考え方は同じだと思うぞ。芽吹きが始まれば一巡だからな。」

「朧げで良い。僕達の暦は整頓されてはいるが、正確さに欠けている。長年のひずみが溜まっているんだよ…。僕は今、暦の編纂をさせている最中だ。」

「……由璋は新しい暦を作ってるのか?皇帝ってのは凄いな。」

「触(ふれ)が出るのはずっと後の話だろう。しかし、王は…、次の暦の世でも生きているんじゃないか。長命なんだろう?」

「お前が作ってるものなのに、何で他人事のように言う。寂しいだろ……。その時は由璋がよみ方を教えてくれ。」

「いいよ。生きていたらな。」

「…ところで王、お前何歳なんだ?」

「人間の暦でか?おおよそだが、70くらいだと思うぞ。」

「!!!?嘘だろ…?」

「何が嘘だ?」

「予想より……」

「己(おれ)に何を思っていた?言ってくれ由璋。」

「天真流露だな、お前。」

「褒め言葉か。」

「…そうだな。」

 

 

いつものふたり

「王、この香りは自然(じねん)のものか?」
「己の?香り?」
「そう。」
「眼。ここから出てる。」
「それは刺青(すみ)ではないのか。」
「違うよ。剥き出しの血管みたいなものだ。」
「……どうなってるんだ。」
「気になるか?わかるぞ、己も人間には興味がある。」
「桂花に似ていると言われないか?」
「……言われる。このにおいが嫌いだという者もいる。」
「眩しすぎる光は時に嫌悪を生むだろう。お前という存在はそれほどに美しい。」
「…己の力のことを言ってるのか?」
「お前の全てだ。」
「由璋、己のどこが好き?」
「全部。」
「己も。いや、そういう話じゃなくてな…」
「お前が僕の全部を好きというのは嘘だな。」
「それならお前の言葉だって嘘だっ!」
「……王が言い返した…。」
「あー…、もうやめよう。己は由璋が好き。」
「僕も王が好きだ!」

誘惑と陶酔

「欲しくてたまらなかったものが、いざ手に入ったら、興味がなくなるってことないか?お前の熱っぽさ見てるとそう思えてくる…。」
「僕は欲しいものが手に入った事など今迄で一度もない。わからないね。でも、手に入るならば終生愛でるだろう。」
「そうなんだ。」
「何の話をしている、王。」
「もしも…で悪いが。己の全てを思い通りにできたら…今のその熱はお前から失われるのかなと思ったんだ。そう考えたら寂しくなった。」
「…王の莫迦め!そういう話は、僕のものになってから言え。その気もないくせに。」
「お前だって、己があげたいところは貰ってくれないだろう。」
「貰ったら、お前が僕の欲しいところをくれるとでも?」
「……そんな打算的な愛し合い方、嫌だ。」
「、、王。僕はもうお前に出逢ってしまった。こうなったら、お前を手に入れるか、お前を殺すか、僕が死ぬかしか、道はないんだ。…欲しくてたまらないって、そういうことじゃないのか。お前はこの僕に対して、どう応えるつもりだ。」
「……由璋が好きだ。」
「…僕も王が好きだけど。熱が失われるのはお前のほうじゃないのか?」
「終生愛でてくれるんだろ…」
「もしもの話ばっかりするな!」

現(うつつ)の夢

「僕はあの時、死ぬ筈だったんだろ。」
「ん、そうだな…。」
「じゃあ、今の僕は何なんだ、王。」
「お前はお前だろう。」
「…嫌な響きだな。」
「そんなことないぞ。」
「どう足掻いても、僕はここから出られないのだと思い知る。」
「由璋そうじゃない。お前のことを決めるのはお前だ。」
「…やめろ。王にはわからんだろうな。」
「ごめんな。」
「…。…いや。お前が好きだ。」
「己も由璋が好きだよ。」
「死んで良かった命なら、死んだことにするべきだったな。そうしたら今頃、お前と幾らでも遊んでいられたんじゃないか。」
「ふふ、お前でもそういうこと考えるんだな。」
いかないでくれ。お前がいればずっと夢を見ていられる。