散文/王とまりろん(1)

王と龍珠

「ぜんぜん、好きなんかじゃないけど…。あんたは、私が見てきたどんな男より色っぽい。…好きじゃないけど。」

「……褒めてるのか腐してるのかわからんぞ。」

「なんでかな、あんたは、全部知ってるからかな…」

「お前、眠いのか?悪いが己(オレ)では床(とこ)まで運んでやれない。」

「子供扱いしないでよ。」

「…己が何を知ってると?」

「……愛も、死も。」

「…。龍珠(ロンジュ)、少し眠れよ。」

「最初は紅衣を盗む為だったし、茉莉花(マリカ)を好きにならないよう気をひきたかった。今は…私、あんたに同情してる。」

「お前、意外と真面目なんだな。」

「何よそれ。」

「男と寝るのにひとつひとつ理由をつけてるから。そのほうが安心するのか?」

「……馬鹿にしてんの?」

「そう思ったなら悪かった。」

「…あんた、同情されてるんだよ?可哀想だから相手してあげてんの。腹立たない?」

「悪かったって言っただろ。煽るなよ。」

「王、すぐ謝るのね。ほんとつまんない男。プライドとかないわけ…」

「そういうのはな、生きてるのが楽しい奴等の道楽だろ。渇きを癒せるのは水だけだ。感情が何になる。」

「…」

「同情でもいいんだよ。何でも。己は喉が渇いているだけだ…」

 

キャンキャン吼える子犬みたいにうるさくて、すぐ怒るし、素直じゃないし、でも、最後は黙っていなくなるんだな。

文句ばかり言いながら、ずっとそばにいてくれたのは、夜が明けぬうちに、雨が止まぬうちに、こわれてしまう心があることを、知っていたからなんだろう。

お前はそんな夜に生まれたのかな。

お前が笑わないのは、あの娘に笑顔をあげたからだ。あの娘は、暗闇すら自ら光り出すほどに笑う。

 

龍珠。

全部好きだったからな。

 

 

月を知らない娘

「王、今日は満月ですって。何をして過ごすの?」
「そうか。どうしようかな。…茉莉花、夜の月を見た事はあるのか?」
「うーん…?多分、あると思います。お天道様みたく光るんでしょ?まんまるなのが満月!」
「うん、合ってるよ。」
「ふふ…。いいなぁ…あたしも王と一緒にお月様が見たい…。」
「…記憶には残らないだろうが、一緒に見るよ。」
「うん…。」
「茉莉花、何が食べたい?月を見ながら。」
「え!えっとね…、蛋撻(ダンター)かな!」
「わかった。」
「……夜になっても、あたしって、…あたしですか?」
「、ああ。君は君のままだ。」