王と龍珠
「ぜんぜん、好きなんかじゃないけど…。あんたは、私が見てきたどんな男より色っぽい。…好きじゃないけど。」
「……褒めてるのか腐してるのかわからんぞ。」
「なんでかな、あんたは、全部知ってるからかな…」
「お前、眠いのか?悪いが己(オレ)では床(とこ)まで運んでやれない。」
「子供扱いしないでよ。」
「…己が何を知ってると?」
「……愛も、死も。」
「…。龍珠(ロンジュ)、少し眠れよ。」
「最初は紅衣を盗む為だったし、茉莉花(マリカ)を好きにならないよう気をひきたかった。今は…私、あんたに同情してる。」
「お前、意外と真面目なんだな。」
「何よそれ。」
「男と寝るのにひとつひとつ理由をつけてるから。そのほうが安心するのか?」
「……馬鹿にしてんの?」
「そう思ったなら悪かった。」
「…あんた、同情されてるんだよ?可哀想だから相手してあげてんの。腹立たない?」
「悪かったって言っただろ。煽るなよ。」
「王、すぐ謝るのね。ほんとつまんない男。プライドとかないわけ…」
「そういうのはな、生きてるのが楽しい奴等の道楽だろ。渇きを癒せるのは水だけだ。感情が何になる。」
「…」
「同情でもいいんだよ。何でも。己は喉が渇いているだけだ…」
キャンキャン吼える子犬みたいにうるさくて、すぐ怒るし、素直じゃないし、でも、最後は黙っていなくなるんだな。
文句ばかり言いながら、ずっとそばにいてくれたのは、夜が明けぬうちに、雨が止まぬうちに、こわれてしまう心があることを、知っていたからなんだろう。
お前はそんな夜に生まれたのかな。
お前が笑わないのは、あの娘に笑顔をあげたからだ。あの娘は、暗闇すら自ら光り出すほどに笑う。
龍珠。
全部好きだったからな。
月を知らない娘