散文/王と妃(1)

結婚

「あー…、ええと、宜しく。己 (オレ)は王(ウアン)という。」

「初めまして。私は妃(フェイ)。」

「知ってるよ。昔、百華(パイファー)が遠目から教えてくれた。今いる中で天啓の名叢は、己と君だけだって。一度話がしてみたかった。会えて嬉しい。」

「でもこうなるとは思ってなかったわね。」

「それは…まぁ。」

「……」

「…妃さん。己は王(おう)と言っても何の権限も持たない。…君の意思で断っても良いんだよ。」

「……私はこの話、お受けしたからここにいるの。」

「…ああ、うん。」

「王さん、あなたは私に…伴侶となる者に、何を求める?」

「えっ!?」

「婚儀の前に、訊いておきたくて。」

「……え、」

「…」

「…、己を好きになって欲しい…」

「!……」

「……」

「……」

「…今のは、そういう話じゃなかった?」

「………私の意見も聞いてもらって良い?」

「あ、勿論。」

「あなたと結婚はしますけど、他人でいたいの。」

「……ん、…え?」

「まず別々に暮らしたい。私性に合わないの。夫婦でも、会わないでいる時は他人でいたい。だからあなたがどこで何をしていても良いし、他の誰を好きでも、それは私に義理立てしなくていいわ。でも一緒にいる時間は、私はあなたの妻である努力をするから。あなたもそうして欲しい。」

 

「それじゃあ…諸々の摺り合わせもあるし、近いうちにまた会いましょう。」

「ああ、……」

 

 

「王、妃に会ったか?」

「…百華、結婚って何だっけ……」

「俺に訊くんじゃねぇよ。」

 

 

意地
「おはよう、王さん。」
「妃さんおはよう……どうしたのそれ。」
「昨日、花付(かふ)した方からいただいたの。あなた竜眼(ロンガン)好きでしょう。もらってくれる?」
「嬉しいな、勿論もらう…妃さん、己が竜眼好きだとよく知ってるな!」
「だって…王さんの家の外、竜眼の殻がたくさん落ちてるじゃない。」
「あー…アハハ。」
「私、竜眼は苦手なの。はい。」
「あー…、ありがとう。」
「…何飲んでたの?」
「雲南七子餅茶(うんなんななこへいちゃ)。いる?」
「いいえ。普洱(プーアル)は飲まないの。」
「……君と己って、ほんとうに“合わない”な。」
「それって悪いこと?」
「…悪いとは思わない……」
「……。」
「…妃さんの好きなものって何?」
「私…、」
「これからは、それを見たら君を思い出して、君にあげるようにする、己も…」
「………」
「…。」
「……王さんは寂しがりね!」
「悪いこと?」
「……(絶対に好きになるもんか)」